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2025年5月19日、ビジネスや行政、デザインの現場で注目を集めている「リビングラボ」について書かれた日本で始めての入門書「はじめてのリビングラボ」の著者である、株式会社地域創生Coデザイン研究所の木村篤信さん、デンマークにあるロスキレ大学の安岡美佳さんをお迎えして、書籍の内容をもとにリビングラボについて学ぶトークイベントを開催しました。

このイベントは、デザイン科学科の柴田研究室、情報変革科学部認知情報科学科の新井田研究室、および一般社団法人日本リビングラボネットワークの共催で行いました。 当日はさまざまな学部・学科から学生や教員が参加し、会場には50人近くが集まりました。またオンラインでは卒業生や他大学の先生など、学外から参加してくれる人もいました。

イベントは、安岡さんによるリビングラボとは何かというお話から始まりました。リビングラボとは、従来の研究室のように閉じられた空間の中で実験をするのではなく、日常的な生活環境を「ラボ」に見立てて、外に出てトライアンドエラーをすることが基本だということです。例えば、高齢者のためのサービスをつくるのであれば、高齢者の生活の専門家である高齢者自身がラボの活動に参加していることがとても大切なのだということでした。

会場からは、「地域に新しい活動を定着させようとしたときに、どんなことに気をつける必要があるか?」と質問がありました。安岡さんからは、ヨーロッパで盛んになったリビングラボは参加型デザインなどの民主主義的な考え方がもとにあるので、そのベースがないままに日本でそのまま適用するのは難しいのだけれど、それでも例えば「何かをやろうとしてもなかなか人が集まらない」といった課題はヨーロッパと日本で共通していることも多いので、そういった課題を解決するためのツールから入ってみるのもひとつのやり方だと思う、と実践的な回答をいただきました。

木村さんからは、“べき論”にしないということが伝えられました。“べき論”は正しいけれど、誰もやりたいとは思わないという状況に陥りやすいので、活動の中にそれをやる人たちのワクワクがしっかりと組み込まれていて、やる人が確実にいる活動にお金などのリソースをかけていくことが重要ということでした。

すると会場からは続けて、「やる気のある人がワクワクで活動を駆動する一方で、その周りにいる主体性を持てない人たちをどのように巻き込んでいくことができるのか?」という質問があがりました。

安岡さんからは、誰もが持っている“好きなこと”から生まれる「やりたいな」というふとした思いを消さずに、最初の一歩を踏み出せる環境を整えていくことがリビングラボなのだというお話がありました。いろいろな理由で一歩が踏み出せないことが多いのだけれど、そこをどうやって乗り越えるかをすごく頑張って考えているのがリビングラボなのだということでした。

木村さんは、「フォロワーシップ」の話をしれくれました。誰かが何かを始めたときに、2人目が近寄ってきて一緒にやることが重要なのだということでした。2人目が登場することで、一緒にやっていいんだと思う人や、楽しそうだから混ざりたいと行動する人が出てくることで、「ふとした思い」が消えないようにすることができるということです。

最後に、研究としてのリビングラボというテーマで、木村さんと会場で対話をしました。木村さんからは、リビングラボにはプロジェクトのレベルとプラットフォームのレベルがあるという見方が紹介されました。新しいしくみを街に定着させたいというときに、それをリビングラボ的なアプローチで実践するのがプロジェクト。一方で、千葉工大のようにリビングラボ的なアプローチを実践したいと思う学生や先生がたくさんいるところではプラットフォームをつくると良いということでした。個別にひとりひとりが時間をかけて信頼関係を築くことはとても大変で継続も難しいため、プラットフォームをつくって、信頼を寄せてくれる人や連携をする企業とずっとつながっていられるようなことが有効だということでした。ただし、リビングラボのプラットフォームに関する知見の蓄積はまだ浅いという現状についてもお話いただきました。プロジェクトマネジメントなどでは知見が体系化されているけれど、リビングラボの知見は「プラットフォーム運営の身体知」のような、より動的なものを扱うことになるので、どのようなアウトプットにしていくとよいのかということを引き続き考えていく必要があるということでした。

千葉工大は「世界文化に技術で貢献する」ことを実践する大学です。技術が新しい文化を支えるうえで、リビングラボというアプローチやデザインがやれることがたくさんありそうだという期待を抱かせてもらったイベントでした。木村さんと安岡さんは、これから日本各地で同様のイベントを開催する予定だということです。